福岡高等裁判所 平成元年(ラ)48号 決定
抗告人 磯本豊子 ほか五名
相手方 国 ほか五名
主文
本件抗告をいずれも棄却する。
抗告費用は抗告人らの負担とする。
理由
一 本件抗告の趣旨は「原決定中抗告人に関する部分を取消す。」との裁判を求めるというにあり、その理由は別紙抗告の理由記載のとおりである。
二 当裁判所の判断
当裁判所は、本件記録を検討した結果、次のとおり判断する。
1 抗告人らは、他の一九名の者とともに、水俣病患者であるとして、相手方らを被告に、原審裁判所に民法七〇九条、国家賠償法一条に基づく損害賠償請求訴訟を提起しているところ、その主張に照らすと、同訴訟につき抗告人らに勝訴の見込みがないとはいえないことが一応認められる。
2 そこで、抗告人ら各人につき、民訴法一一八条の「訴訟費用ヲ支払フ資力ナキ者」に該当するか否かを検討する。
(一) 抗告人磯本豊子
疎明資料によると同抗告人(昭和九年九月一日生)は、夫芳一(五五才)、長男政行(二二才)、長男の妻周子(二二才)、孫の行雄(一才一一月)、同貴男(八月)、次男義人(二〇才)の七人家族で、夫及び長男、次男の三名が家業の海苔養殖並びに漁業等に従事し、一家の年収は約八〇〇万円程度であることが一応認められる。
(二) 抗告人田浦フジエ
疎明資料によると同抗告人(大正一四年二月二〇日生)は、夫元士(六三才)との二人暮らしであり、夫婦して年金生活をしている。夫は昭和六三年四月まで福岡県立福岡高等技術専門学校の職業訓練指導員をしていた。同人の課税証明書によると、同人の昭和六二年の年収は四八八万円余である。なお昭和六三年の同人の年収は三五〇万円余であることが一応認められる。
(三) 抗告人木場テル子
疎明資料によると、同抗告人(昭和二二年一二月二〇日生)は、夫勝(四一才)、長男健一(九才)、長女(六才)の四人家族であり、夫は新日本製鉄株式会社に勤務する会社員である。同抗告人は主婦のため収入はないが、右夫の給与収入は、昭和六二年において年約五四六万円余であることが一応認められる。
(四) 抗告人古河チヨ
疎明資料によると、同抗告人(大正一一年九月一九日生)は、夫浅雄(六七才)及び夫の妹美枝子(五六才・両眼失明の身体障害者)と同居しているが、昭和六三年九月以降家族に有職者はいない。右三名の昭和六二年の年収は合計約四一一万円余(夫二九三万円余、抗告人の厚生年金年額約四〇万円余、美枝子の身体障害者年金年額約七八万円余)であること、なお右家族の年金収入だけでも合計三一八万円あることが一応認められる。
(五) 抗告人吉岡明美
疎明資料によると、同抗告人(昭和三〇年一月六日生)は、夫靖祐(三六才)、長男孝高(八才)、次男隆宏(四才)の四人家族であり、夫は損害保険代理店を経営している。課税証明書によると、夫の昭和六二年の年収は三二四万円余であるが、抗告人には専従者所得(年六〇万円)があり、両者の合計額は三八四万円余であることが一応認められる。
(六) 抗告人阿部美穂子
疎明資料によると、同抗告人(昭和三三年九月一三日生)は、夫篤(三一才)、長女美紀(八才)の三人家族であり、夫は九築工業株式会社に勤務し、抗告人は株式会社資生堂大分販社に勤務し、化粧品の販売業務に従事している。同抗告人の昭和六二年の年収は、同人の課税証明書によると三六六万円余であり、夫の同年度の給与収入は、陳述書によると三〇〇万円余である。従つて、右合計六六六万円余が昭和六二年の一家の年収であることが一応認められる。
右事実によると、抗告人らの生計を共にする家族の収入は、いずれも本案提起の昭和六三年度において年間三〇〇万円を上回つていることが優に認められ、これに本案訴訟の手数料額にも鑑みると、本件事案の特質を考慮しても、抗告人らが「訴訟費用ヲ支払フ資力ナキ者」に該たるとは到底認められない。
抗告人らは、本件訴訟では狭義の裁判費用以外にも種々の莫大な経費がかかることを考慮に入れるべきである旨主張するが、かかる点を考慮に入れても、現段階で、訴え提起の手数料まで訴訟救助すべき事情は見出し難い。
また抗告人らは、本件訴訟は集団訴訟であり、「資力」についても集団的単一的に判断されるべきである旨主張する。しかしながら、かかる見解は当裁判所の採用しないところである。
その他、本件記録を精査するも、原決定にはこれを取消すべき何らの瑕疵も認められない。
三 以上によると、抗告人らの本件訴訟救助申立を却下した原決定は相当であるから、本件抗告をいずれも棄却し、抗告費用は抗告人らに負担させることとして、主文のとおり決定する。
(裁判官 新海順次 山口茂一 榎下義康)
別紙 抗告の理由 <略>
【参考】第一審(福岡地裁昭和六三年(モ)第一三七九号 平成元年三月二二日決定)
主文
一 別紙申立人目録(一)記載の申立人らに対し、標記本案訴訟の訴え提起の手数料について、いずれも訴訟上の救助を付与する。
二 同目録(二)記載の申立人らの本件各申立をいずれも却下する。
理由
一 本件各申立の要旨は、「申立人らは、いずれも標記本案事件の原告であるが、訴訟費用を支払う資力がなく、かつ勝訴の見込みがないとはいえないので、右費用について訴訟上の救助を求める。」というにある。
二 そこで検討するに、別紙申立人目録(一)記載の申立人らについては、一件記録により、いずれも「訴訟費用を支払う資力なき者」に該当し、かつ本案訴訟について勝訴する見込みがないとはいえないことが疎明される。
しかし、同目録(二)記載の申立人らについては、いずれも「訴訟費用を支払う資力なき者」に該当することの疎明はない。すなわち、これらの者については、その提出に係る疎明資料により、申立人本人及びその家計を同じくする者の年収の合計が三〇〇万円を超えていることが認められ、現在の国民生活の水準に照らせば、「訴訟費用を支払う資力なき者」に該当するとは認めることはできない。
三 よつて、主文のとおり決定する。
(裁判官 谷水央 大島隆明 岡田健)
別紙 申立人目録(一)、(二) <略>
別紙 相手方目録 <略>